片手打ちバックハンドでスピンを打つ 後編

『現代的な片手打ちバックハンド』を考える

“横向きをキープし両腕を広げるようにスイングを行う片手打ちバックハンド”はラケットが木製の時代には居たのかもしれませんが、現在、”トッププロが打っている片手打ちバックハンド”は”私たちが習うそれ”とは違っていると感じています。

テニス 片手打ちバックハンド 初期練習2

同様に、初心者の方がスクールでフォアハンドを習う際の『横向きのスクエアスタンスでテイクバックを取り体重移動をしながらラケットをスイングしていくという打ち方』も、昔から続く指導方法に基づくこの20~30年のテニスの進化・スポーツの研究の結果に則してしない内容だと感じるのです。

スタンスと体を横向きにするスクエアスタンスによるテイバック

「現代的な片手打ちバックハンド」の要素は?

『現代的なフォアハンド』を参考に、ラケットをスイングし、ボールが飛ぶという理屈から「現代的な片手打ちバックハンド」を考えるとすれば、次のような要素が思い浮かびます。

1.テイクバックの位置からラケットを十分加速させていく。(ボールを飛ばし回転をかける運動エネルギーの大きさはラケット重量とラケットスピードで決まる)

2.加速は瞬間的にごく短い距離で行うべき。長い距離を動かすスイング(大きく振る)はラケットを動かすのに大きなエネルギーを必要とするし加速させにくい。

3.ラケット及びラケットヘッドの動きは『慣性の法則』に基づく。

4.片手打ちバックハンドは利き腕だけで打つので、スイング中の回転運動の中心は利き腕の肩であり、フォアハンドにおける体の中心を軸とした回転とは異なる。

5.インパクトの位置(インパクトの13cmの始まり)は “加速度が保たれており、ラケットスピードが速い、利き腕の肩を追い越した辺り (利き腕の肩の前辺り)” が適当である。

6.スイングする目的はボールを飛ばすため。ラケットスピードを保ち、安定したインパクトを得るためラケットはボールの打ち出し角度・方向に向けてスイングしていく。スピンをかけようと打ち出し角度・方向とスイング軌道の角度がズレればスイングスピードは低下し当たりも悪くなる。

7.ボールの打ち出し角度・方向に向けラケット面をスイングしていく中でトップスピンの回転を発生されるにはボールの中心から上側の端に偏って力(運動エネルギー)を加える。ラケットとボールが正確に当たりにくくスイングスピードも上がりにくい『ボールの下から上へのスイング』は効率が悪い。

8.ボールが飛ぶのはラケットとボールが接触するから。接触する前、離れた後にいくらラケットを動かしてもボールに影響は与えられない。スイングの形、フォロースルーの形を気にするのではなく、ラケットの(初期)加速と速度を保った状態での(ボールに影響を与える)インパクトを大事にすべき。

こうったことは、ボールを打つ際に説明されることはまずないですね。

実際のスイングを考えてみる

片手打ちバックハンドは利き腕だけでスイングしします。

1.テイクバックからスイング初期

フォアハンドのテイクバック同様、手に重さを感じないようヘッド側を立ててテイクバックし、スイング開始時にグリップ側から手に引かれるラケットは慣性の法則でその場に留まろうとするヘッド側は手をスイング軌道と逆方向に引っ張ります。

ただし、ヘッド側が留まろうとする力より手がラケットを引く力の方が強いので、手はヘッド側に逆方向へ引っ張られながらもラケットはスイング軌道上を前進していきます。

テニス グリップ側から手に引かれヘッド側は真後ろから追従

テイクバックで上半身を軽く捻っているので、グリップ側から手に引かれて倒れたラケットは体の非利き手側(右利きなら左手側)から体の前側正面に引き出されてきます。

これは横向きから腕の曲げ伸ばしだけでラケットを前に押し出すのに比べ、体の回転に伴い腕を動かしていけるのでスイングが楽になり、ラケットの加速にも繋がります。

片手打ちバックハンドのスイング(横から)1

体を軽く捻じりテイクバックをすることでラケットを掴んだ非利き手(左手)に利き腕(右腕)自然と引かれています。また、スイング開始に伴い慣性の力でテイクバックの位置に留まろうとするラケットに腕も引っ張られるので、これに対抗する形で「肩を動かす」「曲がった肘を伸ばしていく」ことでラケットの初期加速を得ます。

片手打ちバックハンドのスイング(横から)2

2.現代的なフォアハンドでは”ラケットを大きくスイングする”ようなことはしない

『現代的なフォアハンド』ではスイングはコンパクトで無駄がありません。

テニスでも「ラケットを長く大きく動かすことでボールを飛ばす力を得られる」「ラケットを大きくスイングすれば遠心力によりボールが飛ぶ」といった話を聞くことがありますが合理的とは言えません。

“重さのある物体”を動かすのにも“長く動かす”のにもエネルギーが必要でラケットが動くエネルギーを提供するのは人間です。

遠い位置からラケットを時間をかけて長い距離を移動させてボールに当てるのであれば、予めボールに近い位置に置き瞬間的に加速させてボールに当てる方が遥かにメリットが大きいです。(速度が上げやすい、慣性の力をラケットに発生させやすい。距離が近い方がボールに当たりやすい。必要な時間が短くて済む等々)

遠心力はラケットを回転の外側に引っ張るのであり、ボールを飛ばすためにスイングしている方向とは力の向きが異なります。遠心力をボールを飛ばすんだと大きなテイクバックを取って大きなスイングをする方を見ればそのスイングスピードが決して速くないのは一目瞭然だと思います。

プロ選手のフォアハンドを見て「テイクバックが小さい」「体を捻じりをそれを戻す回転で打っている」と見た目の印象だけで捉えるのは適切ではないと思います。

繰り返しますが、ボールを飛ばし回転をかけるのはラケットであり、ラケットは慣性の法則により動いていくので、私たちが行うのは「ラケットを加速させ慣性の力で安定的に動いていこうとするラケットを体の機能や仕組みを使って補助すること」です。

3.片手打ちバックハンドにおけるスイング軌道の中心軸は”利き腕の肩” (横向きキープが必要な理由)

片手打ちバックハンドは利き腕だけで打つのでスイングによりラケットが動くスイング軌道の中心軸は利き腕の肩の位置になります。

この点が体の中心が回転の中心軸になるフォアハンドと異なる部分であり、片手打ちバックハンドでは体の横向きをキープしろと言われる理由です。

テニス 片手打ちバックハンドの横向きはスイング軸の違いから

片手打ちバックハンドで「横向きをキープする」と言われる理由は、ラケットを持つ腕を動かしてスイング軌道を作る際に中心軸である利き腕の肩が体の回転等の影響で動いてしまうと

1. スイング軌道が毎回ブレてしまい正確に当たらなくなる

2.スイングの中心が動けばラケットの加速に影響を与えラケットスピードが遅くなる

といった影響があるからです。

フォアハンドを体の回転で打つのは回転軸が体の中心にあるから問題ありません。片手打ちバックハンドでは軸が動いてしまうのは大きな問題です。

肩の位置とラケットの関係はテコの原理における支点と作用点に相当するので支点が動いてしまえば力は伝わりにくくなります。また、スイング軌道のブレで正確に当たらなくなれば当然ボールに伝わる運動エネルギーも小さくなります。

4.スイング開始から瞬間的にラケットを加速させ、加速度が残り速度を保っている範囲でボールと接触する

ラケットを持つ利き腕の上腕を動かし、肘を伸ばしていった先、上腕と前腕が一直線になる辺りにラケットの最大加速の範囲が来るようにします。そこがインパクトである0.004秒の間に13cm動く始まりの位置になるということです。

片手打ちバックハンドのスイング(横から)3

肩の前辺りであれば目の位置からも近いのでボールとラケットの距離感を得やすいです。打点を前に取ろうとすると“後ろからラケット面を通してボールを見るような位置関係”になり当てやすいと感じる反面、ボールとラケットがそれぞれ体からどの位離れているのかが把握しづらくなると考えます。

片手打ちバックハンドのスイング(上から)1

片手打ちバックハンドのスイング(上から)2

片手打ちバックハンドのスイング(上から)3

5.もう一つラケットヘッド側の加速要素 (中心からの距離)

上腕の動きや曲げた肘を伸ばすことでラケットはグリップ側から引き出されてきますが、加速し速度を得たラケットのヘッド側は回転運動に伴う遠心力 (ラケットを回転軸の外側に引っ張る力) もあり『より体から遠ざかって』いきます。回転運動の中心から遠い物体ほど、同じ時間で同じ角度を動くために必要な移動距離が長くなることからその速度は速くなるので体から遠ざかることでラケットヘッド側は更に加速します。

加速したラケットは、腕の動きよりも速度が速くなることで、体や腕を追い越していき慣性の力で更に前進していこうとしますが、追い越してしまうことで体や腕から加えられていた力が弱くなり、ラケットの加速度(速度が増す割合)、およびラケットスピードも低下します。ラケットは腕の長さ以上に前には進めないので、速度を落としながらフォロースルーに至ります。

“スイングする目的はボールを飛ばすため”で、ボールを飛ばすためにラケットから伝わる運動エネルギーの大きさは”スイングスピードで決まる”ので、『ラケットとボールが接触するのはラケットが体を追い越してその速度が低下していく前になる方がよい』というわけです。

私たちが通常考える”打点の位置”はグリップの厚さによって変わってきますが、ボールを飛ばし回転をかけるためにラケットスピードが速い範囲で打と考えるなら、あまり厚くないグリップを使い、ラケット及びラケットヘッドが体を追い越してあまり離れていかない範囲で打つというのが適していると私は考えています。

厚いグリップで打てばスピンがかかるというのはちょっと違うということです。

片手打ちバックハンドの打点は前に取れという説明

「片手打ちバックハンドの打点は前に取れ。前に取らないと差し込まれて打点で力が入らなくなる。」と言われますが、そもそも“ラケットとボールは固定されていない”のでスイング中にたまたま接触するボールにラケットで力を加える、ラケットで押すと言うことには違和感があります。

“打点を前に取らないと差し込まれる”というのは、前に向けて差し伸ばしたラケット面でボールを押す感覚に近いでしょうか。ラケット面でボールを押すのなら、その位置が体に近くなれば肘が曲がり腕も体に近くなることで“前に押せない”と感じるはずです。

体の前で物を押す

ボールを飛ばすためにスイングを行っているのですから『ラケットスピードが速い位置でボールと接触させる』というのは妥当な考え方であり、ラケットを加速できるのは『振り始めからラケットが体を追い越すまでである』ということです。また、『その位置からラケットとボールは接触したまま約13cm前進していく』ことも考えないといけません。

ラケットとボールが離れてしまっているフォロースルーではボールは飛びません。フォロースルーはスイングの後半であり、ラケットを加速させた結果という感じでしょうか。

グリップは厚くしない意味

なお、フォアハンドのイメージから「片手打ちバックハンドでもグリップが厚い方がスピンがかかりやすいのでは?」と考える方も居ますが、ボールを飛ばし回転をかけるためにラケットスピードを活かす、ラケットが体を追い越してない利き腕の肩辺りでラケットとボールを接触させるなら、グリップはむしろコンチネンタルからやや厚めに動いた位、薄めのセミウエスタングリップ位で打つ方が良いと思います。グリップが厚くなる程打点の位置は前に動き、これは加速度やラケットスピードの低下に繋がります。

現代的なフォアハンドで打つ選手の代表例がフェデラー選手でありナダル選手だと思っていますがお二人ともグリップは薄めです。グリップが厚いジョコビッチ選手やマレー選手よりもボールとの接触位置を体に近い位置に取り、スイングの速さでスピンをかけている打ち方になっています。

慣性の法則の影響をうけるラケットの動きを補助するためのリラックスさ

物体であるラケットは慣性の法則の影響を受け、止まった状態ではその場に留まろうとし、動いている状態ではその直進運動を続けようとします。この特性を利用してラケットを加速させボールを飛ばす運動エネルギーを大きくし、できるだけ小さいロスでボールが飛び回転がかかる運動エネルギーを伝えるための安定したスイング軌道と正確なインパクトを実現します。

人がラケットをボールに当てよう、ぶつけようとする意識や操作は本来ラケットが自然と加速し安定的に動いていくのを邪魔してしまいますから、ラケットの動きを助け邪魔しないために必要なのが「リラックスしていること」であり、人の持つ体の機能や仕組み、それらがどう動くのかを考え、理解することです。

世間では「脱力」がキーワードになっていて脱力すればボールの威力が増すようなイメージで語られていますが「脱力とはどういった状態を示すのか」が具体的に説明されることはありません。多分、誰も「脱力」を説明できないからです。

私は「脱力」という説明を「リラックス」に置き換えればよいと思っています。

こすりあげるのではない。ボールの打ち出し角度・方向に向かってスイングしている中で回転を発生されるということ。

繰り返しになりますが、現代的なフォアハンドでは”ラケットに働く慣性の力”と”ボールを飛ばし回転をかける要素であるラケットスピード”を有効に使います

ボールを飛ばすためにボールの打ち出し角度・方向に向かってラケットをスイングしていきます。打ち出し角度とスイング角度がほぼ同じですから正確にも当たりやすくボールに伝わる運動エネルギーのロスも小さくできます。

上半身を捻ってテイバックするフォアハンドスイングによってラケットは腕よりも速度が速くなる

計算上、ベースライン中央の地上から80cmの打点からネット中央の2倍の高さ (1.8m)を通過するスイング軌道を実現する打ち出し角度は「水平 +5度」程度であり、この角度でボールを打ちだす・スイングしていく中で、テイクバックの停止状態から加速し、速度を得て、腕や体を追い越し、前に出ていこうとするラケットに腕が引っ張られ、腕は内旋およびプロネーション方向に自然と捻じれることでこれに対応しようとします。

この腕の捻じれは片手打ちバックハンドの場合は、外旋およびスピネーション方向になります。

腕の外旋・内旋

腕の回内・回外

これらの自然な腕の捻じれの中でラケットヘッド側が引き上げられ、ボールの上側に偏って力を伝えるのを助けます。

テニス ボールの上側に偏って力を加えてスピンをかける

片手打ちバックハンドにおいてはフォアハンドほど大きくヘッド側は持ち上がりませんが、スイングスピードが速い中であればボールスピード・回転量共に十分に出るはずです。

打ち合うスピードが遅い場合などは、回転に多く運動エネルギーを割り振れば回転量は増やせますが、ラケットスピードの速さ (振りぬきの速さ)が片手打ちバックハンドの特徴であり、現代的なフォアハンドもポイントはラケットスピードの速さを活かすことなので、スイング軌道ではなくラケットスピードでスピンをかけると考えるべきだろうと思います。

フェデラー選手の片手打ちバックハンド

ガスケ選手の片手打ちバックハンド

スイングし、ボールが飛び回転がかかる理屈は現代的なフォアハンドと同じだと思います。

フォアハンドが長い時間をかけて研究されて進化してきたのと同様に現代のトッププロが打つのは昔から言われる片手打ちバックハンドの打ち方とは違う『現代的な片手打ちバックハンド』なのでしょう。

これは、片手打ちバックハンドに限らず、両手打ちバックハンドもフォアハンドやサーブも理屈は同じで、全て、ラケットの加速度とスピードを利用してボールを飛ばし回転をかけていきます。人の操作で飛ばす・回転をかけるのより、よほど安定感がありラケットスピードも上げやすく、技術やコツではなく”理屈”に基づくものなので誰にでもできることです。

まとめ

「片手打ちバックハンドでスピンをかけるには?」という話でしたが、結論としては「現代的な片手打ちバックハンドとは何かと考えれば、片手打ちの特性を活かしたスイングができ、且つ現代的なフォアハンドと同様にボールスピードも回転量も得ることができる。それは現代的なフォアハンドと理屈は同じだ。」ということだと思っています。

自分は分かっているという気持ちが上達の最大の敵

蛇足ですが、ギリシャの哲学者エピクテトスは「すでに知っていると思っていることを学ぶことは不可能だ」と言っています。人は“自分が既に理解していると思っていること”を改めて考えたり学ぼうと思ったりはしません。それが本当に正しいのか、もっとよい方法があるのかしれないのにです。テニスの上達において最も生涯になるのは「自分は分かっている。自分ができている」と思う気持ちです。少し学んだかで全てわかった気持ちになってしまえば上達はそこで終わり、上達を阻んでいるのは自分自身です。

極端な例ですが、仮に”1度も走ったことがない人”が居たとします。その人は歩くことしか知りません。ある日、その人がもっと速く歩こうと思い、筋力アップや体幹トレーニングをしたりしているのを見たら「そんなことをする前に走り方を学んだ方がいいよ」と言うと思います。多くの運動やスポーツで共通して用いられる私たちの体の仕組みや機能、使い方を理解せず、物体であるボールやラケットに働く力を考えずに、上達=技術の向上だと毎日たくさんボールを打ったり、筋トレをしたりすることは上達の遠回りだと思います。

テニスで日常的に話される情報の多くは「そうすることで、何がどう影響してボールが飛ぶ、回転がかかる、安定することに繋がるのかという根拠や情報を欠いている。プロ選手がこうやって打っている、〇〇するイメージで、こうした方が力が入るでしょ等、イメージや例え話の中で説明側・聞く側の双方がなんとなく理解できたようになっている」と感じてしまうのです。

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