脱力って何だろう

今、日本のテニス界隈は”脱力”ブーム?

他のページでも書いていますが改めて。

今、日本のテニス界隈で流行りのキーワードと言えば “脱力” です。

雑誌は動画等のテニス解説では”脱力”という言葉で溢れていますし、一般の方々がテニスについて話す際も“脱力しないとダメ”“ここで脱力するんだ”といった内容をしょっちゅう耳にします。

でもこの脱力について、テニスの説明で”脱力”という言葉を使われているケースで、同時にその”脱力”の意味や内容(どうすれば脱力になるのか?)を説明しているケースを見たことがあるでしょうか?

まず無いと思います。 私も“ほぼ”見たことがありません。

殆どが脱力の内容には触れず「ここでは脱力してください」といった指示のみだったりします。

※”ほぼ” と書いたのは脱力の内容や体感する方法について説明されている解説を見たことがあるからです。でも、見たことがあるのはその方(グループ)のみです。

少し前までは”プロネーション”祭りでした

同じようにテニス界隈で大人気の言葉に“プロネーション”がありますね。

サーブを打つ際、プロネーションを使えばサーブの威力が上がると言われ、皆、サーブの話をするたびに「プロネーションが!! プロネーションが!!」と言いあっています。

でも、”脱力”の例同様、「プロネーションを使って打つ」というサーブの説明の中で、プロネーションとはどういうもので、サーブを打つ際にどう関わってくるものなのかという説明がされることはほぼありません。

プロネーションとは (手で言えば) 肘と手首の間の上腕にある2つの骨が捻じれることで起きる事象です。ニュートラルの位置から体の中心に向かって回転する動作をプロネーション、体の外側に向かって回転させる動作をスピネーションと言います。

このことはネットで調べればすぐに出てくるので、プロネーションという言葉を使って解説されている方はご存知の場合も多いでしょう。(でも、時々、これとは明らかに違う動作を示してプロネーションを使うにはと言っているテニス解説も見ますが。)

でも、プロネーションが何かは分かっていても、サーブを打つために腕を振る動作の中でそれがどういった意味を持つのか、他の体の機能との関係性、そもそもプロネーションは勝手に起きるのか、自分で起こそうとすることに意味や弊害はあるのかといった部分は曖昧なままなのだろうと思います。

もし、説明される方々が等しくこれらのことを理解されておられるのであれば、プロネーションを行う根拠や基礎となる情報に触れることなく「プロネーションを使え」といった説明はしないだろうと思います。

実際、それら言われる説明を聞いてもプロネーションのことはよくわからないままでしょう。

人の体の構造や機能、仕組みを理解しようとすればいろいろとわかることもあると思いますが、テニスを指導される方でもそういった理屈の部分に興味を持つ方は多くないのかもしれません。恐らくプロネーションを使えと説明される方々も曖昧なままなのだろうと思います。

また、我々もプロネーションをよく分からないまま、単に”上達に繋がるキーワード”と信じて日々使ってるだけです。

脱力とは何なのか?

私にも”脱力が何なのか”はわかりません。

というか、いつ誰が使い始めた言葉なのか具体的に知る方法が分からないです。

ただ、一つ思うことは、海外のテニス解説動画の中で “脱力” に相当する言葉は”relax” または “relaxation” しか見当たらないということです。前者は動詞で”リラックスする”、後者は名詞で”リラックス”です。

スポーツに限らず、“リラックス”“リラックスする” という言葉は昔から使われていますね。

つまり、いつ誰が使い始めたかわかりませんが、

「海外のコーチやテニス指導・解説をされている方が使う”relax” という言葉や表現をわざわざ日本語に翻訳して “新たな重要キーワード” のように使い始めたのではないか?」

と推測しています。

「フォアハンドを打つ際は脱力しなさい」と言われてもどう脱力すればいいのかピンとこない方でも「フォアハンドを打つ際はリラックスしてラケットを振りなさい」と言われれば相手が言いたいことは段違いにイメージが沸くのではないでしょうか。

いろんな場面で使われている “リラックス” という言葉ですが、テニス初心者の方でも自身の過去の経験からその場面、その場面で「リラックスしなさい」というのがどういったものを指しているかはイメージできると思います。

日本のテニスは国内ローカルな情報が蔓延してる

日本人は英語が苦手なので海外のテニスに関する情報や知識に直接目を向けることを殆どしません。海外から伝わる情報は誰かが翻訳した内容のみです。その紹介者のフィルターを通して情報が伝わるので、その人の解釈や持論、思惑によって情報が正確に伝わらないことも多々あります。

エッグボールの例

日本でもいまだに使われることがある「エッグボール」という言葉があります。

その昔、ナダル選手が全仏オープンチャンピオンになり有名になり始めた頃、ナダル選手の強力なスピンがかかったボールを指してエッグボールと言っていました。

「卵を真横から割ったような断面(片方から伸びた曲線が反対側の端に到達する直前で急激に落下する)に似ていることからナダル選手のボールは “エッグボール” と言います」と著名な解説者の方がウィンブルドンのTV中継で話していたのをよく覚えています。

エッグボールのボール軌道

テニス エッグボールの軌道

当時、ナダル選手に憧れる一般の人たちは「エッグボールの打ち方を知りたい」と口々に言い、雑誌等のテニス解説でも「エッグボールの打ち方」がたびたび載っていました。

ただ、コーチが言ったり雑誌に載ったりする「エッグボールの打ち方」はかなり”ふわっと”していたのをよく覚えています。

インターネットでegg ball を検索してみる

当時はまだインターネットがありませんでしたが、インターネットで”egg ball”で検索すれば以下のような画像が出てきます。海外にはエッグボールという言葉はないのです。

エッグボールの検索例

エッグボールの正体はというと、当時、ナダル選手の強烈なトップスピンのかかったボールを海外から招いた著名コーチに説明してもらう際、あるテニス雑誌が作った造語といったもののようです。聞いた話なので真偽はわかりませんがエッグボールが日本で作られ、日本だけで使われていた言葉なのは間違いないと思います。

海外にはエッグボールという言葉はないので (誰かが「俺が発明した」と言い出さない限りは) この世には”エッグボールの打ち方”というもの自体が存在しません。

国内で色んな方が説明するエッグボールの打ち方はそれぞれ微妙に違っていたし、全体的に見て本質が何かわからない”ふわっとした”内容だったのはこのためだと思います。

日本で発明された打ち方ならともかく、海外にはない、ある時、急に日本で作られた単なる造語に対して「これがその打ち方だ」とあれこれ論じていた時代に苦笑しかありません。日本のテニスに関する研究や分析が海外ほど進んでいない時代にです。

その後次第にエッグボールという言葉を使うコーチや指導者の方は居なくなりました。海外では使われていない言葉だと知ったためかもしれません。

日本でしか使われない情報や解釈が蔓延している

日本のテニス界隈では、こういった “通説”として当たり前のように広まっていても、海外にはそのような情報は無かったり、海外とは違った形で広まっている情報がたくさんあります。

私は今ブームの”脱力”もそういった類のものだと思っているのです。

脱力が何かを知りたいのであれば、”脱力” という言葉を使って説明されている方に “脱力” を(自分がわかる範囲という意味で) 論理的に根拠を持って説明してもらうべきだと思います。

プロネーションの例同様、何となく周りの雰囲気に乗って “脱力” という言葉を使っている様子じであれば、その表現はそのまま聞いておいて自分の中で “リラックス” に置き換える方が賢明かもしれません。

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