素振りに意味はあるか?

テニスの練習方法としての「素振り」

テニスの練習方法のひとつとして行われているのが「素振り」です。そしてよく“練習方法としての素振りに意味があるのか?” という議論になります。

練習方法として素振りを皆が思い浮かべるのは “テニスは二人以上でないとゲームができない” という点が関係しています。一人で練習しようにも壁打ち等ができる場所は限られます。また、部活風景やマンガ等の影響で「基本の練習=素振り」という印象を持っていることもありますね。

一人で練習と言えば、昔は『ゴム紐の着いたボールを打つ道具』を買ってみる人がたくさん居ました。

こんな道具:

テニス練習用ゴム付きボール

でも、使ってみればすぐに分かりますが、かなり技術がある人でないとボールは自分の所に戻ってこないのでそもそも続けて打ち続けることができません。上達を目指すために皆買っていた訳ですがその目的には殆ど役に経ちませんでした。値段も安いので買ってみてもすぐ使わなくなる道具の典型です。

ここでは”素振りは意味があるのか?”という点について書いてみます。

素振りをする目的

テニスの練習として素振りをする目的として思い浮かぶのは『フォームの確認』があります。ラケットを振っている様子は自分では分からないので、鏡のような物の前で映る姿を見ながら素振りをしてみたりします。最近ではスマホ等で撮影する方も居るでしょうか。

フォーム (form)という言葉

フォーム(form)は日本語で言えば「形」という意味です。他に姿や外観という意味もあるようですが、テニスにおいては皆「形」という意味で使っていると思います。

野球ならピッチングフォームやバッティングフォームという言い方で馴染みがありますし、他スポーツでもフォームという言葉を使うものは色々あると思います。

form(フォーム)をインターネットで検索してみると

私はテニスに関する情報を調べるために海外のサイトも見ています。

理由は、日本語で検索するとどこかで聞いたようなキーワードが羅列したサイトや広告のような情報ばかり表示されてしまうからです。「サーブは運動連鎖で打つ。プロネーションを使う。」といった表現でもいいのですが、運動連鎖やプロネーションの説明も何故そうするのかと言った説明もありません。「サーブの速度を上げたければ運動連鎖やプロネーションを使うべきだ」という説明に説得力は無いし、何故やるのか、どうやればできるのかも分からなければ理解しようがありません。

さて、インターネットで「pitching form」や「tennis serve form」といった文字列で検索してもほぼ情報は出てきません。

理由は「フォーム (形)」という言葉の認識の違いに関係していて、英語では”形”ではなく”動作”で考えているようです。

野球の投球は “ピッチング (pitching)” ですし、分かりやすい例で言えば、ゴルフではボールの打ち方は「フォーム」とは言わずに「スイング」といいますね。

ゴルフ 構え

未だに使われる「エッグボール」のような日本で作られた言葉(海外にはエッグボールという言葉自体がない)ではありせんが、「フォーム (形)」 という表現でボールを打つ動作や打ち方のことを説明しない、テニスで言えば「フォーム」とは言わず「スイング」と言うということです。

何故、「フォーム」という言葉を使うのか

日本において様々スポーツで「フォーム」という言葉を用いるのは、指導において「形」が重視されていること、及び「形」を作らせることが指導の手法として一般化している表れだと思っています。

例で言えば、空手の形(型)であったり、行儀作法の姿勢や動作を形で示すといったものであったりです。

空手の型

テニスにおいても、テイバックの形、打点(インパクト)での形、フォロースルーの形、トロフィーポーズの形等々、教える側が教えやすくするため、また、教わる側に内容を把握しやすくするために”形”を示すやり方が用いられているのでしょう。

少々極端ですが私は、そういう教え方に皆が慣れているからというよりも「教える側の都合で形を作る教え方になっている」と思っているのです。

人の動作は “人の持つ体の仕組みや機能” を使ったもの

ラケットでボールを打つ際、人は自身が持つ “体の仕組みや機能” を使ってスイングを行います。

人の体の構造、機能、仕組み

日常生活でも、走ったり、ボールを蹴ったり、ボールを投げたりする際に、体の各部位の位置や角度をいちいち考えながら動かしたりしません。過去の経験で動作に慣れているという面もありますが『人が本来持つ基本的な動作の範疇だから』という点も大きいのです。走る動作は各スポーツで共通して用いられます。

「人の体の構造や仕組みは皆が基本的に同じ」という大前提

当たり前に思うかもしれませんが“人の体の構造や仕組みは皆基本的に同じ”です。

この事は「体の機能や仕組みを使い運動を行う限り走るといった特定の運動を行う際の体の動かし方は皆大体共通してくる」ということを意味します。

一斉にスタートした陸上短距離選手の走り方が皆、全然違うということは起こりえません。“効率的な体の動かし方をすることが速く走る前提” だからです。

陸上競技選手のスタート

自分が走りやすいからといって、体の仕組みをや効率を度外視した走り方ではまず速く走れないし怪我の原因にもなるはずです。

スポーツにおける動作は人の体の仕組みや構造を前提としており、多くの基本動作は共通してきます。筋力や柔軟性などの要素が必要な部分はあっても、走る、止まる、曲がる、投げる等は誰がやっても同じような体の使い方になる (すべき) ということです。

「なら、ボールを打つ際の体の使い方も皆同じようになるはず」ということ

ただ、普段テニスをしている場に目を向ければ一般のプレイヤーは皆、ボールを打つ際のフォームが様々なのが分かると思います。

子供 テニス フォーム

良く言えば”個性的”な訳ですが、運動における基本動作が体の構造や仕組みを基にしたものであるなら、ラケットでボールを打つという動作に対し効率的で安定的な体の使い方をすれば、皆、同じような体の使い方、打ち方になるはずです。

今回の「フォーム」という言葉を使うなら「皆、フォームが似ている」という状態が本来自然だということです。実際、男子トッププロがボールを打つ際のスイングを見れば、特徴はあっても基本的部分は皆似通っています。

※正しい使い方とは何か、どういった使い方が正解かという面はここでは触れません。

“形” にこだわるテニス指導の場

英語では形であるフォームと言わず、動作であるスイングと言うという点、人の体の構造や仕組みは皆共通するから、運動における基本動作、その体の使い方は皆共通してくるという点から、テニスの理解のために考えるべきは「体の仕組みの理解とその使い方」「それによって動作である”ラケットをスイングする”といことを理解すること」だと思います。

テニスの説明する際に「形」を作らせるのは、武道や文化などの伝統に基づいた日本人全員が親しみのある伝え方かもしれませんが、『体の仕組みや使い方に基づき、走ったり腕を振ったりしている一連の動作の途中の一瞬を “形” として切り取り、その”形” を作らせる練習に意味があるのだろうか』と思います。

テイバックやトロフィーポーズは停止して見えますから、その状態を”形”として再現するのは教わる側からすれば分かりやすいと感じるかもしれません。

テニス フォアハンド フォーム

でも形を作ることと、体をきちんと動かすことは別の事柄です。

テイバックからフォロースルーまで続くスイングは、手に引かれ速度を持ち、結果、慣性の法則で”安定的に” 進んでいこうとするラケットによって作られるもので人が腕力で最初から最後までラケットを動かして作るものではありません。

上達すれば打つことに慣れ、意識しなくてもうまく打てるようになるのか?

初心者の方は「うまく打てないのは打つのに慣れていないからで、上達すれば意識せずに打てるようになるのだ。だから上手く打てるようになるには上達することだ」と思うかもしれません。でも、上達して意識しなくても安定的に打てるようになるのは“打つのに慣れた”というより、“スイングにより速度度を持ったラケットが慣性の力で “勝手に” そして “安定的に” 動いていくのを邪魔しなくなるから。そのための体の使い方が分かってくるから” だと思っています。

それは技術の上達とは違いますし、ボールを打つ中で何となく分かってくるのを期待するなら、初心者の段階から理解していれば、いつ上達するのか分からないまま上達する根拠もなくただひたすらボールを打つ日々を続けるよりはるかにマシです。

テニスの上達に近道はなくても知らない間に無駄に遠回りをしてしまう機会はいくらでも転がっています。

素振りは”形”であるフォーム確認のためではなくラケットが自然と安定的に動くのを補助する体の使い方を確認する機会として使う

私は、皆が思うテニスの上達のために関心を持つべきは「ボールが飛び、回転がかかるという物理現象に対し、ラケットが加速し慣性の法則で安定的に動いていこうとする」ということと、「体の仕組みや構造、そして、ラケットを安定的に加速させるための体の使い方」であると思います。

“体が効率よく動くことと直接関係しない動作のどこか一瞬の見た目(形)を気にすること” に意味はありません。体が正しく機能すれば、その動作は見た目もよくなり自然でスムーズに見えるようになるからです。

そう言われれば、鏡に移るフォーム(形)を気にして、周囲と一生懸命に形を直そうとすることの意味に疑問を持つのではないでしょうか?

形を直さないと不自然に見えるのは、逆に体の使い方が不自然だからかもしれません。気にする順序が逆ですね。

ラケットを手に持っている素振りだからこそ

繰り返しになりますが、ラケットには慣性の力が働きます。テイバックで止まった状態にあるラケットはその場に留まり続けようとしますし、手に引かれて始まるスイングで動き始めて速度を持ったラケットはその運動(直進運動)をし続けようとします。

上半身を捻ってテイバックするフォアハンド 上半身を捻ってテイバックしたフォアハンド、インパクト付近

体から遠いヘッド側が遠心力で外側に膨らみ、グリップ側よりも速度が速くなって行きます。(中心から遠い方が同一角度動く際に速度が速くなる) 速度が増したラケットヘッド側はグリップ側にある手や体を速度的に、位置的に追い抜いて更に前に進んでいこうとします。

スイングによってラケットは腕よりも速度が速くなる

手の長さ以上前に進めないラケットは手に引かれることで進む方向を曲げられ、体を追い抜いて以降、体から遠くなる程速度が落ちてきて、フォロースルーに至ります。

フォアハンドフォロースルー

これらテイバックの位置からフォロースルーまでのラケット、特にラケットヘッド側の動きは慣性の法則により自然と安定した軌道を描きます。

ラケットの動きはボールを打っても、打たなくても、速度が落ちたり止まったりすることはないので、実際ボールを打たなくても “手にラケットを持っている” 素振りで、これらラケットの動きとそれを邪魔せずに補助する体の使い方を確認する意味は多いにあると思います。

ラケットを手に持たない状態ではこれらの体感や確認は行なえませんし、実際にボールを打つと皆ボールを打つこと、ラケットをボールに当てることに夢中になってしまいます。

素振りをやる意味はあります (ただし理解が必要)

素振りと言うと、学校の部活で部員数に対してコート数が少ないことをカバーするために、新入部員がひたすら素振りをやらされる状況を思い浮かべてしまいますね。

また、途中述べたように、ボールが打てない状況での練習方法として素振りで “フォーム(形)” を確認するという使われ方はほぼ意味がないので、自分を納得させるため以外には全くオススメしません。

「素振りに意味があるのか?」という質問に対しては「ラケットに働く力とそれをサポートする正しい体の使い方を確認し学ぶには素振りしかない」と思います。

ただ、そのためには“ラケットがボールを飛ばす理屈”“体の機能と仕組み、それらをテニスでも使うには?” を理解し実践する必要があります。

それらは一般的なテニスを教わる機会において説明されることはまずありませんが、難しいことではないので興味を持てば上達に繋がると思います。

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