打点は”点”ではない

“打点”という言葉

テニスを教わる際、ボールを打つ位置・場所という意味での「打点」を各自、イメージ・確認するように指導されます。

厚めのグリップで打つフォアハンド 1

打点の位置にラケットをセットし、「この形がインパクトの形です。この位置でこうやってボールを捉えるのです。」と言った説明です。

ストロークを打つ際、私たちは”スイング”をしている

でも、考えてみれば私たちはストロークを打つ際などボールを打つために“スイング”をしています。

スイングの目的はボールを飛ばし回転をかけるための運動エネルギーをラケットに発生させるためでその大きさは「1/2 x ラケット重量 x ラケットスピード ^2 (2乗)」で計算されます。簡単に言えばラケットスピードが上がるほど大きくなるということです。

男子プロ選手がしっかりと打ったストロークのボールは150km/h位。そのラケットスピードはもっと速いでしょうが、一般の人でも120km/h位のラケットスピードを出すのは難しくはないでしょう。

仮に120km/hのラケットスピードでスイングするとして、ラケットとボールが接触するインパクトの時間はだいたい0.004秒位(0.003~0.005秒)と言われており、『インパクトの0.004秒の間にもラケットは約13cmも前方に進んでいる』計算になります。

テニス インパクトの0.004秒の間にラケットは10cm以上前進する

つまり、打点は”点”ではない

テニスで教わる通りに “空中の一点である打点”でボールを打つとすれば、その一点は“インパクトの0.004秒にラケットが13cm動く範囲のどこに当たるのでしょうか?

仮にラケットとボールが最初に接触する0.004秒の始まりの部分だとすると、その打点位置からあなたは13cmボールと接触したラケットを前方に動かしていかないといけません。

厚いグリップでフォアハンドを打つなら打点位置は体よりだいぶ前です。下図のような「打点」から更に13cm、ラケットのスイングスピードを保ったまま前方にスイングしていけるでしょうか? (※)

テニス 厚いグリップで打つフォアハンド

「打点で力が入る、入らない」という言い方をよくしますが、ラケットとボールは固定されている訳ではなく、スイング中の接触によってたまたまラケットの運動エネルギーの一部がボールに伝わるに過ぎません。ボールを打っても素振りをしてもスイング自体は基本的に変わらないのでも分かります。ボールを強く飛ばし回転をかけたいならシンプルに「スイングスピードを上げること」「正確に当てること(回転をかけようとかすれた当たりをしないことを含めて)」です。

ラケットスピードはスイングにより加速し、そして減速する

一般的には、“打点でラケットをボールに当てること”をスイングの目的だと考えますが、ボールを飛ばし回転をかけるのがラケットから伝わる運動エネルギーであり、運動エネルギーの大きさは端的には“ラケットスピードの速さ”で決まるので、ボールを捉える位置は“ラケットの加速度(速度が増す割合)が高く、ラケットスピードが速い範囲”であるべきです。

物体であるラケットには慣性の法則が働き、止まった状態ではその場に留まりつづけようとし、動く物体はその直進運動を続けようとします。

テイクバックの停止状態から手に引かれてグリップ側から動き出したラケットは加速していきます。手に引かれるグリップ側に対しラケットヘッド側は慣性の法則でその場に留まろうとするのでグリップ側から引く力に対して留まろうとする力は反対方向にラケットを引っ張ります。結果、ヘッド側はスイング軌道に対し真後ろからまっすぐ追従していくこととなります。

テニス グリップ側から手に引かれヘッド側は真後ろから追従

また、スイングは体や腕の回転運動に伴うので、手や腕に力を込めていなければラケットヘッド側は体の回転に伴うスイングにより遠心力がかかり外側に膨らんでいきます。

回転する物体は中心から遠い方が速度は速くなります。「距離 = 速さ x 時間」ですから同じ時間で同じ角度動くのであれば中心から遠い方が速度は速くないといけないからです。

体から遠い位置にあるラケットヘッド側は体の回転や腕の動く速度よりも速度が速くなり、スイングの途中で腕や体を位置的に追い越し、慣性の法則により更に前に進んでいこうとします。ただ、手に握られたラケットは腕の長さ以上に進むことはできないので、手に引かれる形でスイング軌道を曲げられ、速度も低下しながら非利き手側方向に腕と共に巻き付いていきフォロースルーを迎えます。

また、人が腕を強く振ろうとした場合、力を入ると感じる位置 (= 前述の通り、スイングでいえばここは物理的に力が入れられる場所・押せる場所ではなく、ラケットスピードを最も速くできる位置と考えてください) は、利き手側の肩よりも前、且つ、肩よりも前方に離れ過ぎない、上下左右にも離れ過ぎない一定の範囲内です。

腕をしっかり振るには体の正面 (右肩から左肩の間+α) の範囲かつ肩よりも前に腕があること

この範囲においてラケットスピードを最も速い状態にできると考えれば、これよりも前に進んでいったラケットは手や体によって加速させられる力が弱まり速度が低下していきます。

ごく簡単に言えば“体を追い越したラケットは体から離れるほど加速度やラケットスピードが落ちる” ということです。

ボールと接触するのは13cmの範囲(ゾーン)の中で

以降、ボールとラケットは空中の一点である”打点”ではなくスイング中の13cmの範囲(ゾーン)の中で接触させているという前提で考えます。

一般に言う「打点」をこのゾーンの中で考えるなら、上記の“人が力が入ると感じる範囲”、且つインパクトの0.004秒、13cmラケットが動く範囲の前半に来るべきだろうと思います。前半である理由はこの“力が入ると感じる範囲”“そのピークの範囲”であり、ここから更に10cm以上ラケットが前進すると考えればラケットの加速度とラケットスピードは低下するであろうからです。この位置が0.004秒、13cmラケット動く範囲の前半に置くなら、ボールとラケットが接触する0.004秒の始まりの位置は一般に言う「打点」よりももっと手前 (6cm~10cm手前)にあるはずです。

打点を”空中の一点”ではなく「自分がスイングを安定的に最後まで完成させる中でスイング軌道の途中にある13cmの範囲でラケットとボールが接触している」と考えれば、“ラケットでボールを打つ (操作して当てる)”のではなく“ラケットを安定的にスイングしラケットスピードを上げる”ことの方がボールを飛ばし回転をかけるというスイングの目的に合うのは分かるのではないでしょうか?

補足: ラケットの加速

前述の通り、遠心力で外側に膨らむことも含め、体から遠い位置にあるラケットのヘッド側は体の回転や腕の動く速さよりもその速度は速くなり、体や腕の位置を追い越して更に前方に進んでいこうとします。

テニス フォア ラケット軌道

※時々「ラケットの先の方で打った方が飛ぶ」「プロ選手はラケットの先の方で打っている」という話を聞きますが、ラケットの中心よりも先端の方が速度は速くなる = 運動エネルギーも大きくなるので、僅かな差であっても体感的にプロ選手はそれを感じるのだと思います。

ただ、多くの場合『ラケットを安定的に加速させること』に重きを置かず『ボールを打つこと、ラケットをボールに当てること』をスイングの中心に考えますし、「ボールを打つには教わる手順をきちんと守ってスイングしないといけない」と教わる”打ち方”を厳密に再現しようとする方も多いです。

世の中は“脱力ブーム”ですが、脱力とは要は昔から言われる“リラックスして打つ”ということだと思います。ラケットの安定的な加速にはリラックスしており、腕や手に力が込められていないことは重要です。でも、「ラケットをボールに当てる」という意識があると、“体の回転や腕の動く速さよりもラケットヘッド側の方が速度は速くなる” という部分を邪魔してしまいます。

ラケットをボールに当てにいくスイング

3DCDアニメーションだと分かりづらいかもしれませんが、下のように “ラケットヘッドがグリップ側を追い越さないままインパクトに至る、ラケット面をボールに当てにいく” スイングの方は頻繁に見かけます。

テニス ラケットを動かしてボールに当てにいく

後ろから追従してきたラケットヘッド側がグリップ側を追い越し前に進んでいくプロ選手のストロークと比べれば違いは明らかです。

ラケットが走る、ラケットヘッドが走るという表現

テニスでもラケットスピードが速くラケットヘッド側が前方に動いていく様子から「ラケットが走る」「ラケットヘッドが走る」といった表現がされ、それを起こす方法として「ラケットヘッドを前方に放り投げるように振るんだ」と言われたりします。

でも、スイング中のラケットについて同様に言われること全般、力を込めずラケットを安定的に加速させれば慣性の法則の影響などにより自然とそういうラケットの動きになるわけですから意図的な操作でこれらを起こす意味がありません。

逆に、自分では意識していなくても“ラケットをボールに当てよう”とする意識や操作はグリップを握りしめてしまうことに繋がり、本来誰でもできる簡単な方法である自然なラケット加速を邪魔してしまいかねません。

体の回転で打つ

ラケットをスイングする際、テイクバックでボールに対して横向きになった体をネット方向に向けていく必要があります。これは前述した “人が腕をしっかりと振る際に力が入りやすいと感じる位置が利き腕の肩よりも前になる”ことと関係します。ピッチャーはボールを投げる際に横向きだった体をキャッチャーに向けていきますね。

ただ、スクール等で教わる「体を回転させて打つ」という話が自身の“ボールを打つ手順”に組み込まれてしまうと“体を回転させること = スイング”となってしまう方がいます。

テニスを教わる際、スイングは形(打ち方)として示され、今回書いているような慣性の法則に基づくラケットの加速と前進を前提とした説明はされません。体を回転させることでスイングを行うんだと考え、体の回転を重視するあまり、体と腕、ラケットが一定となって回転をしてしまいます。

テニス スイング 体と腕、ラケットが一体になって回転してしまう

こうするためにはラケットを支えるために腕や手に力がこめられますし、体の回転 = 腕の動き = ラケットの動きですから、ラケットヘッド側は本来可能な加速や速度を得ることができません。

また、体の回転でラケットをスイングしてしまうとボールを打つのは中心軸の位置に依存するためボールを打つ位置に対する許容範囲が小さくなります。スイングスピードが上がらないことでボールをしっかり打てないことを体の回転をより速くすることで補おうとするし、飛んでくるボールが少し速くなったり、多少体勢が崩れただけで食い込まれたりして満足に打てなくなってしまいます。

テニスはラケットという道具でボールを飛ばすスポーツですが、ボールを打とうとしてあれこれやること、ボールを打つ技術を高めようとすることよりも、人が持つ体の機能や仕組みを理解し、ラケットやボールという物体に働く物理的な力を利用する方がよほど安定してテニスができると思います。スクール等ではそういったことを教わる機会はありませんが、理屈としては理解可能じゃないかと思います。

スポンサーリンク

フォローする