ボールに回転をかける トップスピンとスライス

ボールに回転をかけて打つ

硬式テニスはボールに回転をかけて打つことが求められます。

両サイドのコートの間にはネットが91.4~107cm(シングルス)の高さで張ってあり、ベースライン付近から直線的な軌道のボールを打ってネットを越し、且つ相手側コートのライン内の地面に着地させるのはかなり難しいです。

昔はラケットが木製でボールも飛びませんでした。これは、今と打ち方が違って“ラケットスピードが上げられずラケットの運動エネルギーを大きくできなかった”ことと、“ボールと当たった際のラケットのしなりが大きいことでラケットからボールに伝わる運動エネルギーを大きくロスしていた”からだと推測しますが、ボールスピードが遅いことで回転をかけなくても(ある意味軟式テニスのように) 空気抵抗と重力で十分ラリーができていたと想像します。

Tennis racket owned by Gerald R. Ford.JPG
By Tennis racket, Public Domain, Link

遅いボールであれば空気抵抗や重力によるボールの自然落下を活かし、打点からの打ち出し角度・方向さえ間違わなければ、フラットロブのように相手コートのライン内に落下させるのはそれほど難しいわけではありません。速くスイングする必要もないので打ちそこないも防げます。(昔はラケット面が小さいので当てるのは難しかったでしょうが。)

ただ、ラケットやガットが進化し、速いボールが簡単に打てるようになった現在ではボールに回転をかけて軌道をわざと湾曲させ、「ネットを安全に越し、且つ相手コートのライン内に安全に収める」打ち方をする必要が出てきました。

道具の進化で回転をかけて打つのは楽になりましたし、しっかりと回転がかかりさえすれオーバーしないので試合中も“いちいち気を使ってボールを打つ”必要がなくなります。(振れば入る) 応用としてより短い距離でボールを着地させるような使い方や、トップスピン回転により着地後のバウンドを変えるような使い方もできるようになりました。

ボールに回転がかかるのは物理現象

初心者の段階から「トップスピンをかけて打つように」と言われ、皆が「ボールの下から上に向かってラケットを振り、ラケット面をボールに当てていくことでスピンをかける」と “打ち方” を教わります。

そして、その後、テニスのレベルが上がっても常に皆の認識の中にあるのは、ボールの下から上に向かってラケットをスイングするという”ボールの打ち方” です。

学校の授業ではありませんが、ボールに回転がかかるのは物理現象で、回転が発生する要因は“ボールの片方の端に偏って力が加わること”です。発生要因が満たされれば方法は何でもよいのです。

“ボールの下から上にラケットを振っていく”というのはスピンをかける方法の1つに過ぎないのですが、教わる際に「なぜトップスピンがかかるのか? 物理現象とボールとラケットの関係性は?」という点では情報が与えられないため、教わる「打ち方」がトップスピンをかける方法の全てになってしまっています。

トップスピンの打ち方、スライスの打ち方

フォアハンドはほぼトップスピンで打っていても、バックハンドはスライスで打つ練習もすると思います。バックハンドを教わる際は「トップスピンの打ち方」であり「スライスの打ち方」といった説明になります。バックハンドのスライスなら、「横向きになってラケットを高く持ち上げ、体の横あたりの打点でボールの上から下にラケットをスイングしてボールにスライス回転をかける。体を開かないように注意。また、スイング角度が急すぎるとボールをカットしてしまうので気を付ける」といった感じでしょうか。

本来、スライスはトップスピンに比べ、わずかな回転でも効果が出やすいので初心者でもマスターしやすい球種ですが、バックハンドのトップスピン寄りのボールは打ててもバックハンドスライスがうまく打てない人はかなり多いと思います。

その理由は「バックハンドスライスの打ち方という説明の仕方」にあると私は考えています。

前述の通り、ボールに回転がかかるのは物理現象です。ボールの片方の端に他より偏って力が伝わるだけでボールは回転を始めますトップスピンならボールの中心より上側、スライスならボールの中心より下側に偏ってラケットから力が伝われば回転はかかるのです。

下の図を見てください。

テニス ストローク ボールの上側に力が加わればスピン テニス ストローク ボールの下側に力が加わればスライス

ベースライン付近の打点から水平+5度程度の打ち出し角度でストロークを打つとします。(※なぜ 水平+5度なのかは「トップスピンをかける (スイング角度)」を参照)

ボールの打ち出し角度・方向に対して真後ろから90度のラケット面でボールに触れることがもっとも安定してボールを捉えることができるので、ボールの打ち出し角度、スイング軌道、ラケット面のすべてが”水平+5度” とします。

この際、スイング軌道とラケット面、ボールの打ち出し角度は1直線に並びますが、「ラケットとボールが接触した際に、ボールの上側に少しだけ強く力が加わるようにするだけでトップスピンがかかるし、逆にボールの下側に少しだけ強く力が加わるようにするだけでスライスがかかる」というのは何となくでも想像がつくと思います。

これは「スイング方向やラケット面は全く同じでも、ボールとラケットが接触した際の僅かな力の伝わり方の違いで物理現象としてのボールの回転(スピンやスライス)は発生する」という事を示しています。

「トップスピンの打ち方やコツ」「バックハンドスライスの打ち方やコツ」は回転をかけるという行為をよりイメージしやすくするために大げさにやらせているものに過ぎませんし、ボールに回転がかかるという意味を理解しないまま「手法としての打ち方」をいくら練習してもうまく打てないのは当然だと言えます。

ボレーでスライス回転をかける

同じような例として “ボレーを打つ際にスライス回転をかける” ケースがあります。

ボレーでは”スイングをしないのが基本”となるので、ボレーを打った際のボール軌道を安定させたり球威をコントロールしたり、弾ませないようにしたりといった目的でスライス回転をかける場合は、ボールに向けてセットしたラケット面を当てる際、ボールの下側に力を伝えるようにしてスライス回転を加えていきます。

「バックハンドスライスの打ち方」として教わるようなボールの上から下にスイングはしませんし、スライス回転を多くかけようとボレーを打つ際にラケット面を”こねる”ように動かしてもうまく打てません。

バックハンドスライスではラケットを大きく動かしてスライス回転をかけるよう説明しているのに、それができないボレーではわずかな力の伝わり方でスライス回転をかけるように説明する、これが「打ち方」で説明される大きなマイナス面です。

トップスピンをかける

テニスを始める際、ほぼ100%の方が「トップスピンをかけてストロークを打つためにボールの下から上に向かってラケットをスイングしていく」と教わります。

テニス スイング ボールの下から上に振る

繰り返しになりますが、ボールに回転がかかるのは物理現象で回転をかける方法は1つではありません。極端に言えば止めたラケット面を飛んでくるボールに合わせて、(スイングではなく)真下から真上にまっすぐ持ち上げるようにしても回転はかかります。

皆が教わる「トップスピンをかける方法」である「ボールの下側から上側に向かってラケットをスイングしていく」やり方は2つの欠点があります。

1つは「スイング方向とボールの打ち出し角度・方向がズレることでラケットをボールに正確に当てづらい」ということ。

常に安定してラケットでボールを捉えるにはボールの打ち出し角度・方向に対してその真後ろから90度のラケット面でボールに当てることが望ましく、ズレても5~6度の間に収めるべきと言われています。

テニス、ラケットはボールの打出し角度に対し真後ろから90度で当てる

ボールの下から上に向かってラケットをスイングしていけば上の図のように “ラケットとボールが接触するのは点” になりますね。トップスピンをかけるという目的に隠れて感じづらいですが当てるのが難しくなるのは当然で、うまくボールを捉えられないのはトップスピンをかけようとしている以前の“ボールへの当たりづらさ”があるからです。

もう1つの問題は「スイングスピードが上げづらい」ということです。

ラケットをスイングする最大の目的はボールを飛ばすための運動エネルギーを得るためです。ラケットがスイングによって得る運動エネルギーの大きさは「1/2 x ラケット重量 x ラケットスピード ^2 (2乗)」で計算されます。スイング中にラケットとボールとの接触があることでこの運動エネルギーの一部がボールに伝わり、ボールは飛び、回転がかかります。

正確に当てることが前提ですが、ボールスピードを上げ、回転量を増やすには運動エネルギーを大きくすること、つまり、2乗で増えるラケットスピードを上げることに尽きます。

皆が、回転をかけよう、強く打とうと “ボールに力を伝えよう” と試行錯誤していますが、手に持ったボールを投げるのと違い、ラケットとボールは固定されていないので「速いスピードで正確にラケットをボールに当てる」ことが全てです。

強くスピンをかけようと考える方は思い当たるかもしれませんが、回転をかけようとボールの下側から上側にラケットをスイングしていく場合、ボールの打ち出し角度・方向とスイング軌道がズレていること、腕を使ってラケットを “上に” 持ち上げようとすることで、本来その人が安定的にスイングできる値よりも明らかにスイングスピードは落ちてしまいます。

ボールを飛ばし回転をかけるにはラケットスピードが必要なので、回転をかけたいと思う気持ちと実際にやっている動作が矛盾してしまいます。こうやって打つ方のストロークは回転がかかっていても速度が遅かったりといったことが多いです。

現代的なフォアハンドにおけるトップスピンとは?

我々が教わる「ボールの下から上にラケットをスイングしてトップスピンをかける」というスイングをしている男子プロ選手は居ません。厳密にはこれもスピンをかける方法の1つなので考え方としてショットの中に出てくることはあるでしょうが、普段打っているスイングでは違うということです。

道具の進化やテニス自体の進化に伴い、ボールを打つための体の使い方への理解も昔とは変わってきています。現在、男子プロ選手の殆どがやっているスイングが「現代的なフォアハンド」であると言えます。

それは体格や筋力、センスが飛びぬけたプロ選手からできるスイングではなく、人の持つ体の機能や仕組み、ラケットでボールが飛び、回転がかかるという理屈に基づいて研究されてきているものですから初心者の段階から皆が同じようなスイングでボールを打つことが可能です。体の無理なく、安定して、怪我無くスイングできるといったものです。

残念ながら我々が普段、そういった情報に触れる機会や教わる機会はほぼありませんが、どういったものか考えていくことは可能ですし、私も常々考えているものでもあります。

テニスを教わる場で言われることが全てではないですし、見聞きする情報が全て正しいとも限りません。周りで聞く”コツ”の類を参考にしてもなかなか上達しないのは自分のセンス以前に情報に問題がある場合も多いと思っています。

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